山田正紀 『翼とざして アリスの国の不思議』

翼とざして  アリスの国の不思議
 山田正紀を読むのは、『マヂック・オペラ』に続いて今年はこれで2冊目になります。
 回想シーンが長くて、中々冒頭の事件が起こっているところの時間には辿り着かないのがつらいところだったというのが正直なところ。
 作中の時代や人物などのやや特殊な設定は、ラストになってみればその設定の必然性は分かるものの、作中に登場する「公安三課『蠍』」に関しては、そのインパクトのわりに作中での必然性は無いし、結局何だったんだろう?という疑問だけが残りました。あとがきによれば、これはいずれ書かれる作品の予告編のようなもの、とのことでしたので、そちらを楽しみに待ちたいと思います。
 トリックに関しては、些か分かり難い部分があったり、主人公である綾香の特殊な精神状況に依存した部分も無きにしもあらずですが、基本的な部分では違和感のないものでした。ただやはり、結末まで読むと動機面での弱さがどうしても気になるところ。狂気という言葉で片付けるには説得力も薄い気がしてなりません。
 秋に出る予定の『サスペンス・ロード アリスの国の鏡』とどう絡むかでまた色々と評価も変わってくるかもしれませんが、これ1作では色々と未消化な部分も感じられました。