北山猛邦 「『瑠璃城』殺人事件」

「瑠璃城」殺人事件 (講談社文庫 き 53-2)
 1989年日本、「最果ての図書館」で君代は樹徒と名乗った青年に「君は生まれ変わりを信じるか」と声をかけられます。彼によれば二人は、6人の首なし騎士に所縁のある短剣で殺し合う運命なのだと言います。1243年のフランスの瑠璃城、騎士レインと城主の娘マリィの時代、6人の騎士が忽然と姿を消し、遠く離れた泉で首無しの死体となって発見されます。また1916年のドイツとフランスの戦場で、すぐ傍にいた人間が突然首無し死体となり、さらには人の出入りのない場所から4体の死体が消えます。そして1989年日本の図書館、密室となった部屋で散乱した本により七芒星を描いた中心で、女性が短剣に刺されます。

 「生まれ変わり」によって三つのまったく異なる時代と場所で起こる事件が、点から線になってひとつの絵を描き出した物語。
 大掛かりな物理トリックと、そのトリックを使う物語のためだけの世界構築は、良くも悪くも著者らしさに満ちたものと言えるでしょう。ただしそのトリックは大仕掛けではあるものの、必ずしも洗練されているとは言い難く、いくつかは作中に図が提示されることで予測可能な範囲だと言えるでしょう。一番複雑なトリックを用いている1989年の図書館にしても、物理トリックとしては非常に巧妙であるものの、確実性という面では些か危うい感じも受けます。
 何よりも、それだけの仕掛けをする必然性が必ずしも説得力を持っているとは言えないものもあり、トリックによる演出部分と生まれ変わりで連鎖する物語とのマッチングが弱い印象も皆無ではありません。
 ひとつの作品の中に色々と詰め込み過ぎて、個別のエピソードはそれぞれ面白いのに、全体で見ると煩雑な寄せ集めに感じてしまう部分は大きいように思います。
 その反面、「生まれ変わり」による連鎖に関わる人物の情念が、全ての時間軸の点と点を繋いでひとつの壮大な絵を描き出した物語の面白さは確かにあるでしょう。
 実はノベルズ版で出た時も買って読んでいたのですが、その時はまるで受け付けなかった一作。
 同著者の『少年検閲官』を読んだ後だから読めた、という気もします。
 そういう意味で本作は、ある程度読者を選ぶものであるかも知れません。