勇嶺薫 『赤い夢の迷宮』 

赤い夢の迷宮
 小学生の頃、仲の良い7人の子供たちは"OG"と呼んでいた老人のところへ入り浸っていました。他の大人が見せない世界を見せてくれたOGの世界に惹かれていた彼らですが、コッソリ入り込んだ「お化け屋敷」でのグロテスクな体験の後、徐々にOGから離れて行きます。それから25年が経ったある日、それぞれ子供の頃とは変わってしまった彼らは、OGから招待状を受け取ります。

 ジュヴナイル分野では精力的な仕事をしているはやみねかおるが、一般向けに漢字名にして講談社ノベルズから出した作品。
 ですが、ジュヴナイル独特の癖のようなものは抜けていませんし、救いの無い話で残虐な場面も割愛せずに挿入してあるがために、結果として子供向けレーベルでは出せないという以外では、個人的には「大人のためのミステリ」と感じるものではありませんでした。
 まず第一に、登場人物の行動や心の動きが非常に表層的であり、説得力に欠ける面が指摘出来るでしょう。それは、犯人が25年もの時間を経て何故彼らをターゲットにしたのかという点にも顕著にあらわれ、必然性を感じさせるだけの説得力の面で弱いと言わざるを得ないでしょう。また、「殺す」ことに執着したり、自らを神に等しい力を持つと見なす人間の歪んだ心理を含め、あまりにもあっさりと描かれていて、全体的に読みやすい反面、全ての登場人物の心理に共感するには至りませんでした。
 さらに一人一人の人物造詣に関しても、子供だった7人がそれぞれ、挫折や失望を経験したり、あざとさを持った大人となった描写も今ひとつ掘り下げが浅かった気がしますし、7人のうちの一人がトラウマからある人物に殺意を抱くような描写も、些か作中においてもリアリティが弱かったように思います。
 トリックに関して言えば、大掛かりな物理トリックについては、ある程度こなれた読者であれば序盤から看破するのは容易いでしょう。また、最後の最後でそれまで積み上げてきた作品の全体構造を崩し得るはずのエピローグも、そこに至るまでに今ひとつ入り込めずにいたために、個人的にはさほどのインパクトもありませんでした。
 全体的に、話はそれなりに破綻無く作り込んでいるのでしょうが、犯罪の根源となる部分での説得力不足であったという印象。
 妙な所で、読みやすさや分かりやすさを追求した、独特のジュヴナイル臭さが個人的に合わなかったということはありますが、むしろ、以前にやはり講談社ノベルズから出した虹北恭介のシリーズの方が、まだ読めた気がします。