知念実希人 『白銀の逃亡者』

白銀の逃亡者 (幻冬舎文庫)
 DoMSという高い致死率のウィルスが世界的に広まり、その病気から奇跡的に生還した人々は、瞳の色が白銀になり、驚異的な身体能力を持つようになります。日本ではこの変異体「ヴァリアント」が犯罪を犯したこともあり、彼らは一般社会から隔離されるようになりました。救急救命医の純也は、DoMSのヴァリアントであることを隠し、ひっそりと生きていました。ですがある晩、ヴァリアントの収容施設から脱走してきた悠という少女に巻き込まれ、政府のヴァリアントに対する政策に不満を持ちテロ行為を目論むグループのリーダーに関わることになってしまいます。ヴァリアントに強い憎悪を抱く刑事や政府の思惑もまざり、事態は混迷の一途を辿りますが…。

 突然広がった未知の感染症によって歪に変貌した社会とその中で必死に生きる登場人物たちによって繰り広げられるSFサスペンス。
 一見すれば荒唐無稽な設定である架空の感染症が、物語内においてはリアリティをもって存在しているのは、著者が医師でもあるという経歴によるものかもしれません。ですがその一方で、登場人物の存在感は今ひとつ薄いような気はします。結末まで「良く出来た物語」が終始テンポ良く展開しているのに、どこか盛り上がりに欠ける感じが皆無ではないのは、やはり登場人物が良くも悪くもステレオタイプな感じがあり、もう一歩踏み込めていない部分の弱さはあるかもしれません。