歌野晶午 『魔王城殺人事件』

魔王城殺人事件 (講談社ノベルス)
 小学5年生の翔太は、親友の宇田川香月ことKAZ、小川健太ことおっちゃんとともに、「51分署捜査一課」を結成し、探偵活動をして遊んでいます。そして、彼らが「デオドロス城」と名付けた近隣で色々なうわさのあるとある邸宅へ調査に出掛けたところ、そこで出会った女の人が建物に入って姿を消す所を目撃します。中が四つに仕切られたその不思議な建物は、それぞれの部屋に一つだけしか出入り口がなく、各部屋同士を繋ぐ扉は存在しません。それなのに、女の人はどこへ姿を消したのか。謎を解くために翔太たちは再び「デオドロス城」へと向かおうとしますが、同じ班の女子たちに知られ、彼女らを交えて出掛けることになってしまいます。そして再び訪れたその建物で、今度は死体を発見してしまうのですが・・・。

 講談社が2003年から刊行している子供向けレーベル、「ミステリーランド」の作品のノベルズ化。
 対象とする読者が「かつて子どもだったあなたと少年少女」であるため、子供向けを意識した作品ではありますが、人間や物質、あるいは死体の消失現象や、子供ならではの視点というフィルターを通すことで幻想的な舞台立てをするなど、探偵小説の「これ」というツボが分かり易く抑えられています。
 主人公の子供らが、5年1組1班=「51分署捜査1課」を結成して探偵ごっこをするさまは、「かつて子どもだった」読者にはどこか懐かしさを感じさせ、おそらくは今現在「少年少女」の読者には、主人公らと視点をともにしてワクワクさせられるものとなっているのでしょう。
 そして、子供向けを謳っているとはいえ、同時に本書は「かつて子どもだった」ミステリ読者をも対象としているということで、「かつて子どもだった」読者諸氏が触れてきたであろう、少年探偵団モノの独特の空気や、人間消失のトリックなど、マニアックなガジェットがきっちり抑えられたものとなっています。トリックそのものの難易度は決して高くはありませんし、ある程度の推測は可能ではあるものの、子供視点のフィルターによって不可解性が増して独特の雰囲気が作られていると言えるでしょう。さらにはトリックそのものについても、大掛かりな物理トリックが楽しめます。また、人間や物質の消失現象の「必然性」についても、大人の読者が読んでも納得いくだけの説得力を備えており、上手く作られた作品という印象があります。
 敢えて瑕疵をあげるとすれば、それぞれキャラクターが立っているにもかかわらず、主人公ら子どもたち一人一人の魅力に薄いということはあるかもしれません。現在「少年少女」である読者らを対象とした時、同年代の登場人物たちにどれだけ感情移入できるか、どれだけその個性に惹きつけられるかという点は、作品において重要な要素となり得るのでは、ということを思えば、もうひとつ何か欲しかったという気もします。とはいえ、古き良きジュブナイルの味わいを、という意図であれば、そこはさほど気にするべき点ではないのかもしれません。。