ダン・ブラウン 『天使と悪魔 (上)(中)(下)』

天使と悪魔 (上)天使と悪魔 (中)天使と悪魔 (下)
 ダヴィンチ・コードの中でも語られていた、主人公ラグンドンがかつて関わったというヴァチカンの中枢部での事件の物語。
 世界のトップクラスの科学者達の集う研究施設で、一人の科学者が殺害されます。そしてその遺体の胸に押された焼印は、もう消滅したと思われる中世の秘密結社「イルミナティ」を表すものだった――というところから、事件は始まります。盗み出された「反物質」がヴァチカンを壊滅させるのを食い止めるため、ラグンドンと、自らも科学者であり被害者の娘であるヴィットリアを迎えたヴァチカンは、法王逝去のため、次の法王選出のコンクラーベの準備に入っています。
 四人の法王候補であった枢機卿の誘拐、そして「イルミナティ」の暗殺者が次々に起こす四大元素を象徴する殺人と、非常に魅力的な謎を見せつつ、物語は劇的に展開していきます。
 最初のうちは、キリスト教とそれに絡む秘密結社を相手取った冒険劇という基本構図が、『ダヴィンチ・コード』と全く同じではないかとも思ったのですが、宗教と科学の対立構造、また謎解きの面でも本作のほうが精緻に描くことに成功していると言えます。
 ただ、イルミナティの拠点を表すガリレオの暗号や、実在の芸術家の作品とのつながりは「いかにもありそう」に描かれていて面白いのですが、惜しむらくはそれらのネタばらしが各巻の口絵写真であらかじめ明らかにされてしまっていることでしょうか。次にどこへ舞台が展開するのか、全てが明らかにされてしまっているこの本の体裁で、少々損をしている面は否めないでしょう。
 また、『ダヴィンチ・コード』がそうであったように、欧米文化の中で育った人間ならば馴染みのある宗教的・文化的素養の面で、やはり日本人はミステリの謎解き部分でのハンディがあると言わざるを得ません。
 最後まで中だるみすることなく読み手を引っ張るだけのエンターテインメント性、テーマ、そして最後のどんでん返しまで、十分に楽しめました。個人的には『ダヴィンチ・コード』よりも高い評価を受けるべき作品ではないかと思います。