J・D・ロブ 『ラストシーンは殺意とともに―イヴ&ローク 10』

ラストシーンは殺意とともに―イヴ&ローク〈10〉
 おそらく、これを読む読者層の多くは、今更クリスティ作品のネタバレがされても気にしないか、(特にネイティブの読者は)映像やそれこそ舞台などでも既知なのかもしれませんが、作中で思い切り『検察側の証人』や『オリエント急行殺人事件』のネタバレありです。(ストーリーの性質上、やむを得ない部分が大きいとは思いますが)
 そして本作は、どこまで著者の意図してのことかは分かりませんが、登場人物の名前で「クィン」や「スタイルズ」が出てきたり、ある部分クリスティ作品へのオマージュとも受け取れるところもあります。
 本作はこれまでのぬるいミステリよりも一段踏み込んで、かなり普通にフーダニットを行っている作品だと言えるでしょう。
 『検察側の証人』の舞台上演中、小道具のナイフがすりかえられて役者が舞台上で殺害されるのを、たまたま夫のロークとともに観劇に来ていたイブも目撃します。誰が被害者を殺させたのか――関係者の人間関係を解き明かすうちに、誰もが被害者を殺す動機を持っていることが徐々に明らかにされ、更に被害者のとんでもない人間性が暴かれます。
 容疑者のほとんどが役者であり、誰もがイブの前であたかも「事件の容疑者」を演技して中々本音を見せずに、捜査は難航します。ですが、過去における人物の繋がりが明らかになり、犯人の本当の姿が明らかになるさまは、普通にミステリの水準を十分に満たしているものと言えるでしょう。
 ただ、ラストにおける犯人との対決は、名探偵が犯人を指摘する芝居がかったシーンを著者なりに取り入れたものですが、些か犯人の自供に頼った展開だったかもしれません(もっとも、そこに至るための証拠はきちんと揃っていたことはフォローされていますし、イブがこのような方法を選んだ理由も、作中における説得力は十分に持っていたと言えるでしょう)。