パトリシア・コーンウェル 『証拠死体』

証拠死体
 何者かに怯えてキーウェストにまで逃げて行った美人作家が、リッチモンドの自宅に戻ったところで無惨に殺されます。自分をつけ狙う誰かに怯え、用心を重ねていたはずの彼女自らが殺人者を招き入れたような形跡に、検屍局長のケイ・スカーペッタも警部補のマリーノも疑問を抱く中、ケイのかつての交際相手のマークがこの事件にケイが関わらないようにと忠告に訪れます。
 マークの不審な行動、殺された作家の消えた原稿、そしてその原稿を盗んだのがケイではないかという言い掛かりをつける弁護士。様々な思惑が入り乱れる中、事件は拡大し、やがてケイ自身にも犯人が迫って来ます。

 検屍官ケイ・スカーペッタのシリーズの2作目にあたる本作は、複雑な人間関係とそれぞれの思惑が入り乱れつつ、事件が展開していくさまが丁寧に描かれる良質なサスペンスに仕上がっています。
 ただ、「検屍官」として事件の真相に迫るという面、そして論理的な推理の積み重ねという要素に関しては、前作よりもやや弱いかもしれません。ですがその分、入り組んだ人間関係、それぞれ裏のありそうな癖者揃いの登場人物など、サスペンスの魅せ方では前作以上にこなれた印象もあります。結末のサプライズでは些か弱さも感じますが、展開の面白さで読まされる1冊でした。