シャーロット・ラム 『黒衣の天使』

黒衣の天使

全世界で一億冊売れたベストセラー作家の遺作

なんて煽り文句が帯にあったのでついつい買ってみた1冊。

 3年前にヨットの事故で夫を亡くしたミランダの前に、事故の際に自分を助けた黒衣の男アレックスが雇い主の取引相手として現れます。彼の姿を見ると、そこについてまわる死のイメージに怯えるミランダですが、偶然雇い主の一人息子が付き合っていた女を殺すところに行き会ってしまい――。

 3年前の事故のトラウマで中々証言の信憑性を信じて貰えないミランダと、さらに彼女を付け狙う犯人一味というサスペンスの構図は非常に良く出来ている作品だと言えるでしょう。
 ただ、どうにも犯人側の打つ手が藪蛇でしかなかったり、彼女の雇い主だったテリー・フィニガン等の人物像が途中から一定していない印象があったりと、幾つか気になる点も抱えていることは指摘せざるを得ません。
 また、せっかく「死体なき殺人である上に、過去の事件のせいで証言を信じて貰えない」という状況を作っておきながら、あっさりとそれを捨ててしまう辺り、非常に勿体ない気がします。
 さらにロマンス要素以外にも、かなりリアリティの上で厳しいエピソードもあるのですが、それを印象的なシーンと読むか、それともそこだけ浮いてしまっていると捕らえるかは読み手の嗜好になるかもしれません。
 全体的に、サスペンス色も濃くリーダビリティもある魅力的な作品であるとは言えますが、それを十分に生かしきれていない物足りなさも感じた1冊でした。