小路幸也 『東京公園』

東京公園
 小学生の頃から母親の形見のカメラを持ち、公園で「家族」の写真を撮り続けてきた圭司は、ある母娘にカメラを向けたことがきっかけで、その夫から「妻を尾行して写真を撮って欲しい」と頼まれることになります。
 公園に出かける人妻と幼い娘にカメラを向けるたびに、そこに生まれる言葉の無い繋がりは恋なのか、そして彼女は何故公園に出かけるのか。

 恋愛小説というよりは青春小説であり、さらには恋愛の延長線上でもある、これまで著者がいくつかの作品の中で描いてきたテーマである「家族」というものを浮き彫りにしています。淡々と語られる物語の語り口調はどこまでも柔らかく、いつまでも読み続けてこの何とも心地良い作品世界に居続けたいと思わされる作品でした。
 取り立てて何か大きな事件が起こるわけでもなし、また劇的な恋愛が描かれるわけでもなく、あるいは主人公の成長物語とも少し違いますが、抑えた筆致で描かれることによってそれらの全ての要素がリアリティを持って存在し、本作品の中に息づいていると言えるでしょう。そこに描かれる登場人物たちは、物語の中の登場人物に過ぎないにも関わらず、あたかも自分の親しい知人のように感じられる作品でした。

 ところで、作中で出てきた「欠片を探している童話」とは、おそらく『ぼくを探して』ではないかと思われますが、本作はシェル・シルヴァスタインの『ぼくを探しに』と同時に、その続編の『ビッグ・オーとの出会い』のテーマも内包しているように感じました。
ぼくを探しにビッグ・オーとの出会い―続ぼくを探しに