ジェフリー・ディーヴァー 『ソウル・コレクター 上下』

ソウル・コレクター 上 (文春文庫)ソウル・コレクター 下 (文春文庫)
 イギリスでのテロリストを追った作戦の大詰めを迎えていたライムの元に、彼の従兄弟が殺人罪で逮捕されたという報せがもたらされます。調べてみると、ライムの従兄弟の家で発見されたのは、外部から持ち込まれた可能性のある証拠であり、そして真犯人自身が通報したのではないかという疑いが浮かびます。同様の手口の事件が他にも起こっていることを突き止めたライムは、容疑者として冤罪を着せる人物を選ぶ際に、犯人が利用したデータに辿り着きます。アメリア・サックスらとともに捜査をするライムは、世界最大のデータマイニング会社に乗り込み、犯人に迫ります。

 『ボーン・コレクター』にはじまる、リンカーン・ライムのシリーズコンピュータや情報化をモチーフとした犯罪や謀略ものの物語というのはこれまでにも数多くありますが、ディーヴァ―らしいスピード感にあふれた展開で描かれる本作のスリリングさというのはまた、格別な一作。情報を操ることで、相手を陥れ人生を奪うことも可能とする怖さや、その標的とされる立場になった時の理不尽さもまた、本作の読みどころのひとつと言えるでしょう。
 犯人が強敵であればあるほど盛り上がるディーヴァ―作品の魅力は、これまでの作品と同様本作でも健在であり、小さな事象を拾い上げて犯人に迫るライムやサックスと、ライムたちを危機に陥れようとする犯人との駆け引きに、読者は否応もなく引き込まれることになります。
 また本作では、個人のプライヴァシーの尊重と社会全体を天秤にかけた際に起こり得る、9.11後のアメリカの一面をも描いていると言えるでしょう。おそらくは現実にもどこかで収集され続けている情報というものを、作為を持って扱えば十二分に起こり得ることが描かれているだけに、物語のエンターテインメント性と同時に身近にある怖ろしさを感じさせられる一作と言えます。
 シリーズとしては、前作で登場した最大の敵、『ウォッチメイカー』の影が最後にちらつく辺りも、今後さらに楽しみです。