海堂尊 『ナイチンゲールの沈黙』

ナイチンゲールの沈黙

 大学病院で通称「愚痴外来」を担当する田口の元に、眼球摘出手術をしなければならないことで不安定になっている患者を抱える小児科病棟から、子供たちのメンタルケアの依頼が舞い込みます。
 また、たまたま居合わせた看護師により入院が決まった重度の肝硬変でもう長くはないだろうという患者は伝説的な歌姫で、彼女も運悪くその晩の当直だった田口の担当になります。
 特殊な歌の才能を持つ看護師の小夜、そして手術を拒む少年、歌姫とそのプロデューサー。
 様々な問題を抱える中、一度も病院に姿を見せようとしなかった少年の父親が殺害され、解剖されるという事件が起こり――。

 前作『チーム・バチスタの栄光』に比べるとネットでの評価は必ずしも高くはありませんが、過剰に期待していなかったせいか、予想以上に楽しめました。
 前作に引き続いて登場したキャラクターに加え、本作で新たに登場したキャラクターもそれぞれ個性的ですし、全体的に構成やテンポの面でも標準以上のものになっていると言えるでしょう。
 ただ、ミステリとして読んだ時には、論理的な解決で真相を提示するべきところにSF的な要素を割り込ませてしまっているというのは、残念と言えば残念なところ。合理的な解釈でのみ割り切れる物語にする必要はありませんが、現代の常識や理論で割り切れる部分と、それを超えたSF・ファンタジー・あるいはオカルトやホラーといった要素を色濃く持つ部分との配分を上手くしないと、ご都合主義な部分だけが目に付いてしまいます。物語の要素としては非常に魅力的ですし面白いのですが、その使いどころやあんばいが些か難しいところだったということかも知れません。
 また、筆者の持ち味である個性的なキャラクターの良さということに関しても、本作で登場したキャリア警察官の加納の個性と役割が、白鳥とぶつかって互いを弱めてしまっている辺りは、非常に勿体無いところ。
 全体的に、やはり前作の方がすっきりと纏まっている印象は受けますが、本作もエンターテインメント性においては十分な魅力を持つものでした。
 まだ名前だけで出て来ない登場人物の存在や本作で残された伏線もあることですし、さらに新たな登場人物を擁するだろう次回作で、これらの問題点が回避されるのか否かで、シリーズとしての完成度も変わってくるでしょう。