コーディ・マクファディン 『傷痕 上/下』

傷痕(きずあと)〈上〉傷痕(きずあと)〈下〉
 FBI特別捜査官のスモーキー・バレットは、半年前に自宅に押し入った凶悪犯の手によって、自身の顔と体に傷を付けられた挙句、目の前で最愛の夫と娘を失うという消えることのない心の傷を負って、セラピーを受けつつ休職しています。復職して再び銃を手に取るか、それともその銃口を自分の口の中に入れて引き金を引くか、決断を下そうとするスモーキーに、部下から彼女のハイスクール時代の友人が惨殺されたという連絡を受けます。犯人はスモーキーに対して名指しでメッセージを送ってきており、彼女のチームの人間の大切なものにまでその手を伸ばし始め、スモーキーは必ずこの犯人を逮捕する決意を新たにします。

 かなりの分量をスモーキーの心の傷となった事件を描くことに費やしており、作中における現在時点で起こる事件に本格的に突入するまでには多少間があるのですが、決して立ち上がりが遅いという印象は無く、終始テンポ良く読みやすかった作品でした。
 あとがきなどで触れられるように、トマス・ハリスマイクル・コナリーと肩を並べる、あるいは凌ぐというような表現は些か過剰でしょうが、サスペンス・スリラー的な要素に関してはかなり良く書き込まれている作品であることは確かでしょう。
 ただし、この種の快楽殺人者とFBI特別捜査官との対決というストーリーに関しては、既に書き尽くされた感もあり、その意味ではさほどの衝撃も目新しさも無かったという印象はあります。インターネットを介したポルノという今日的要素を上手く取り入れてはいますし、原題の"Shadowman"というモチーフや主人公をはじめとした登場人物の書き込みも十分であるのにも関わらず、既存の猟奇犯罪物の域を今一歩脱し切れなかった弱さは残念でした。
 トマス・ハリスなどの読者層からすれば物足りないし、女性向けというには少々ハードといった難しい作風ではありますが、これがデビュー作であることを思えば、一定レベルは満たしたクオリティではありますので、次作以降でいかに継続して読者を惹き付けるか、それとも地味に一発屋で終わるかの分かれ道になるのかもしれません。