シャーロット・ラム 『仮面の天使』

仮面の天使
 ヴェネツィアの運河でボートに乗って出掛けた母親は、幼いセバスチャンに見送られた直後に爆発したボートの事故で死を遂げます。そして大人になったセバスチャンは映画監督として成功し、忙しいスケジュールの合間を縫ってやって来た映画祭でこの街に戻ってきます。ですが彼に思いを寄せる新進女優のローラは、セバスチャンの前の妻が謎の自殺を遂げたことに怯え、そんな彼女の許にも生命の危機を脅かす脅迫状が届きます。

 セバスチャンの母親の死は事故だったのか、そしてまた、彼の妻だった女性の死の真相とローラを脅迫するのは誰なのか、という謎を軸に、物語は母親世代と現在との間を行き来しながら展開します。ですが、現在と過去の二つの物語が交錯するというよりは、実質的に現在を形づくる人間関係の基礎を過去編で埋めていくというものであるだけに、序盤から中盤では人間関係と二つの物語の繋がりが今ひとつ見えて来ないフラストレーションも感じます。
 また、それぞれの事件の真相に関しても事件の起こる背景は丁寧に書き込まれているものの、犯人の意外性が全くないために、少々拍子抜けした感もありました。