結城光流 『少年陰陽師』 5冊

少年陰陽師 真紅の空を翔けあがれ少年陰陽師 光の導を指し示せ冥夜の帳を切り開け―少年陰陽師羅刹の腕を振りほどけ ―少年陰陽師少年陰陽師 儚き運命をひるがえせ
 十二神将の紅蓮を助けるための西国での戦いを終えた昌浩は、その代償として陰陽師として大切な見鬼の才を失い、また、傷付いた紅蓮の記憶を封印することで、紅蓮との間にあった絆が失われてしまいます。心身ともに傷付いた昌浩ですが、滞在する出雲での怪異を何とかして解決して都へ戻ると、祖父の晴明の寿命が尽きようとしていることを知ります。ですが藤原氏に恨みを抱く怪僧と、天狐の一族の裏切り者との思惑が絡み合う中、昌浩自身にも過酷な選択が強いられます。

 まず全体として、この「天狐編」と題されたシーズンはある意味非常にバランスが取れているものであったということが出来るでしょう。かなり多くの登場人物がいるためにどうしても視点は飛びますが、焦点がぼやけることなく非常にテンポ良く展開されています。
 ただ、こうした長編シリーズではやはりある程度のパターンが確立してしまいがちとはいえ、前のシーズンと似たような展開であるということは指摘せざるを得ません。良く言えば先の展開にも安心して読めると言えますが、「またこのパターンか」という既視感を覚えるのは致し方ないところでしょう。
 また主人公の成長物語としては些かその成長速度が遅く、結局のところ最後の最後では「大きな力に助けられる」というパターンで終わっていることも指摘出来るかもしれません。
 しかしながら、話の運びがある程度熟達していることと、数多い登場人物をもそれなりに書き込んでいるという点で、キャラクター主導型の小説としては一定の評価を得ているのは納得出来るものだと言って良いでしょう。