大山誠一郎 『仮面幻双曲』

仮面幻双曲
 双子の兄の文彦を殺すために、弟の武彦は自分の顔を手術した整形外科医を殺害します。そして東京で探偵をしている川宮圭介・奈緒子の兄妹は、文彦からの手紙で自分を守って欲しいという依頼を受け、琵琶湖近くで製糸会社を営む占部家へと招かれます。ですが兄妹が身辺警護を引き受けたその晩に、何故か犯人を招き入れるかのように窓が開かれた自室で、文彦は殺されてしまいます。

 戦後間もない日本の片田舎、裕福な家庭を舞台にした怨恨による殺人という、ストーリーといい時代がかった文体といい、まさに平易に書き下された横溝正史の作品を読んでいるかのような錯覚に陥る1作です。
 整形して顔を変えた、だが彼がどんな顔になったのか分からないという状況下でのトリックは、逆転の発想から導かれる結末も含めて非常に良く出来ていますし、双子の兄弟の間の確執による陰惨な事件という道具立ても、この種の世界観が好きな読者にはまさにストライクど真ん中と言えるでしょう。
 ただし敢えて探偵を兄妹の二人にしてはいても、この二人の個性付けとなる書き込みが浅いこと、また片方をワトソン役にするとしても些か中途半端に終わったという印象も否めません。トリックそのものに関しても、大筋での構造は非常に良く出来てはいますが、些か作中においてもリアリティの面で厳しいという部分も無いとは言えません。また、時代がかった空気を感じさせる文体も非常に読み易い反面、元にあった何かを抄訳して若年齢層向けにリライトしたような、ある意味作品が本来持つ世界観に反する薄味さを感じさせられる怖れもある気がします。
 ですがそうした荒削りな部分も含めて総体的に、古き良き日本的な本格ミステリの雰囲気は久々に味わえた秀作。
 何冊も続けてこの手の物を出されるのでなければ、個人的にはこの手のものは好きです。