星影龍三シリーズの短編集。
ジャズバンドのメンバーが殺されて、犯人と思われる怪しい道化師が目撃されますが、トンネルの中で忽然と姿を消してしまう『道化師の檻』。
莫大な遺産を相続し、大学生に部屋を貸して面倒を見ている男のの邸宅「薔薇荘」で、女子学生が殺害されます。次々に学生を殺した犯人の動機には、男の所有する名画の関係を描いた犯人当て小説『薔薇荘殺人事件』。
嵐によって孤立した、税務管理を引退した富豪の屋敷で起こった、逆さまにされたお面の残された殺人現場、そして続く事件でも同じような現象が起こる『悪魔はここに』。
熱くなった砂浜で休暇で訪れていたモデルの女性が殺された事件について、現場にいた作家と遠く離れた場所にいる星影龍三が往復書簡を交して事件を解決する『砂とくらげと』。
三番館のバーテンシリーズなどに比べると、いかにも自信家で鼻持ちならない、名探偵らしい名探偵の個性を発揮する星影龍三シリーズですが、どの作品もフーダニットとトリックの持つゲーム性を前面に出しているという意味で、謎解き小説としての娯楽性の強い作品集であると言えるでしょう。
ただ些か人物描写には古臭さも感じますし、とっつき難い部分もないわけではありませんが、特に『薔薇荘殺人事件』で見せたプロットの精度の高さと遊び心には、あっと言わされるものがありました。