汀こるもの 『パラダイス・クローズド THANATOS』

パラダイス・クローズド THANATOS (講談社ノベルス ミI- 1)

 周囲の人間を死に巻き込む"死神体質"で魚マニアの引き篭もりニートでもある美樹と、それを収拾すべく存在する探偵体質の真樹の双子の美少年。警視庁から彼らを警護するべく派遣されている高槻は、双子と共にミステリ作家の所有する孤島の館に向かいます。そこにあった素晴らしい水槽に釘付けになる美樹にげんなりしつつも付き合う真樹と高槻ですが、密室で銃殺されている死体が発見されてしまいます。

 "死神"と"探偵"の双子の美少年、随所で用いられるヴァン・ダインの二十則ノックスの十戒をはじめとする本格のガジェット、不吉なまでの救いのなさを持って語られるゴールディングの『蠅の王』の暗示、随所で語られる海洋生物の薀蓄など、過剰なまでのペンダントリが全て「本格」に対する諧謔的な視点でもって用いられる作品。
 その使い方は帯の推薦文にもあるように「挑戦的」と言って差し支えはありませんが、如何せん双子にのみ書き込みの集中したライトノベル特有の薄っぺらいキャラ立ては鼻につきますし、既存の漫画やネット文化をはじめとした、いわゆるサブカルチャーの知識や感覚が無遠慮に盛り込まれるために、かなり読者を選ぶ傾向はある気がします。
 また、序盤の停電の際に用いられていたまどろっこしい手法が何故必要であったかは謎ですし、「本格ミステリ」を否定した「探偵」によって、犯人側の事情は読者に対しても意味が無いと切り捨てられてしまうことのフラストレーションも感じます。
 用いられるトリックそのものは丁寧な伏線も辿れますが、逆に目に付く破綻こそないものの特に目新しいものもないと言ってしまうことは出来るでしょう。ただしそうしたトリックも含め、物語終盤の「本格ミステリ」そのものに対する挑戦的な視点や展開に読まされる部分での評価は出来るでしょう。
 随所に見られるペンダントリに反して、文体や人物造詣は総じて軽く、その辺りで好き嫌いが大きく分かれるところかもしれません。