パトリシア・コーンウェル 『接触』

接触
 ゴミ処理場で発見された胴体だけの女性の遺体は、10年前のダブリンから続いている連続猟奇殺人犯の手によるものと非常に良く似た特徴を有しています。さらに、この事件を担当する検屍局長であるケイのアドレス宛てに送られてきた、"deadoc"(死のドクター)と名乗る差出人からのメールには、被害者の遺体が切断された直後と思われる写真が付いていました。ですが、いけ好かない担当刑事のリングに捜査をかき回されただけではなく、リングはケイに加えて彼女の姪のルーシーにまで不当な嫌がらせを仕掛けてきます。さらには、この事件の背後には怖ろしい細菌が関わっている疑いが濃厚になります。

 ダブリンから始まり、ケイの本拠地であるリッチモンドからバージニアにあるタンジール島、USAMRIID(アメリカ陸軍伝染病医学研究所)、CDC(米国疾病予防管理センター)、そしてエピローグはロンドンと、様々に舞台を移して展開される物語は、緊迫感溢れるものとなっています。若干要素を詰め込みすぎて未消化な部分もありますが、心に歪みを抱えた登場人物たちの姿にしろ、意外で怖ろしい方向に展開する事件にしろ、サスペンスとしては一級品であると言うことが出来るでしょう。
 突然に襲い掛かる伝染病の恐怖という、ある意味古くからあると同時に犯罪小説の中に用いるものとしては非常に現代的なモチーフを扱っており、現代的リアリティに満ちた作品であると言えます。
 また、そうした中で救いようのない身勝手な論理から他人を傷つける人間の歪みや、何の咎もないのに無為に死んでいく被害者達の姿の描き方も絶妙。
 そして、個人的にはこれまで何作か続いてきたケイの葛藤に苛々していた部分もありますが、ラストのあまりのやり切れなさが残す深い余韻は、評価に値するものでしょう。