パトリシア・コーンウェル 『審問 上/下』

審問〈上〉審問〈下〉
 検屍官ケイ・スカーペッタのシリーズの第11弾。
 危うく"狼男"に殺される所だったケイですが、負傷して心身ともに疲れきった被害者の彼女に対し、警察は無神経な取調べや捜査をしつこく繰り返します。さらに、"狼男"が2年前にニューヨークでも犯罪を犯しており、バージニアではなくニューヨークに引き渡そうという政治的な動きに対してケイは憤ります。自宅にいられなくなったケイは、友人の精神科医のアナのもとに身を寄せ、大切な人間を失い続けてきてもなお抑圧された自分の心と徐々に向き合いますが、深い心の傷を負って追い詰められたケイの心理状態までも利用して、重大な犯罪の容疑を掛けられてしまいます。

 前作では犯人そのものに関しては触れている部分は少なかったこともあり、些か物足りなさも感じていましたが、この『審問』においてようやく、狼男"と呼ばれる犯人が人間の犯罪者として姿を現します。
 そして、これまでは彼女を追い落とそうとする相手に対して、あくまでも一人で戦い続けてきたケイが、本作では初めて弱さを見せますが、弱っている彼女の味方となることの出来る人物などいないのではないかという状況にまで追い詰められます。
 ただ、上下巻というボリュームが決して多いとは言いませんが、本作は前作『警告』から引き続いている内容であり、それと同時にこれまでのシリーズを振り返る総括的な部分もある上に、中々状況の見えない前半はひたすらケイの心の傷を掘り下げる内容となっているため、些かこれまでのシリーズ既刊作品とかぶるために、単調に思えてしまうのは致し方ないでしょう。その意味では、続けて何作かを読んでいる読者以上に、リアルタイムで刊行時に1年間のブランクを経て読んだとしたら、長いシリーズ作品特有のマンネリを感じるかもしれません。
 ですが同時に、本作ではこれまでの事件との関連や、当時は語られなかった部分がそれなりに決着を見せているので、シリーズはここで大きな区切りを迎えたという意味合いを持つことは確かです。