ジル・チャーチル 『死の拙文』

死の拙文
 久しぶりに遊びに来る母親に付き合って、地元で開講される自分史執筆の講座にジェーンは参加することになります。ですが、その講座には、あらゆる人を不快にせずにはいられない傲慢なプライス夫人が参加していました。プライス夫人の自分史には、彼女の醜悪な人柄がそのまま表れ、ジェーンも母親のセシルも、そして親友のシェリイも辟易とさせられます。そうしてプライス夫人が掻き回したお陰で、講座の参加者に密かに生まれた殺意よって事件は引き起こされます。

 主婦探偵ジェーンのシリーズの第3弾。
 まず、前作まで描かれていた子育てに負われる戦争のような日常とは少し異なりますが、本作でもジェーンの母親としての悩みや葛藤というのが、飾らないリアルな視点で描かれており、物語に奥行きを持たせるものになっています。
 それと同時に、自分史講座を通じて小説を書くことにのめりこんで行くジェーンの姿や、謂れの無い悪口雑言で周囲にいる皆を不快にさせるプライス夫人の姿など、相変わらず個性的な登場人物たちの描き方が上手いです。犯人が自ら手掛かりを示す部分は、些かその行動についての説得力に首を捻らざるを得ませんが、犯行に至った心情に関しては上手く組み込んであるので、全体的に見れば瑕と言うほどのものは感じませんでした。
 事件そのものは、一応解決に繋がる手掛かりは示されているとはいえ、それだけで読者が論理的に推理して結論に至るのに十分かといえば決してそうではないのですが、それでもさりげなく配置された繋がりは、読んでいて十分に楽しめました。