J・D・ロブ 『イヴ&ローク17 切り裂きジャックからの手紙』

切り裂きジャックからの手紙 (ヴィレッジブックス F ロ 3-17 イヴ&ローク 17)
 切り裂きジャック模倣犯と思われる事件の犯人から、女性警部補として数々の事件によってマスコミに登場することも多いイヴに対し、殺害現場に死体とともに挑戦めいた手紙が残されます。英国製の最高級紙を使用したこの手紙を手掛かりに、イヴは複数の容疑者を浮かび上がらせます。女優の恋人、ミュージシャン、国連の外交官、そして犯罪学の分野に造形の深い文筆家など、捜査線上に浮かんだその世界での有力者たちをイヴは徹底的に調べ上げますが、女性=母親に根源的な憎しみを抱く犯人を追ううちに、イヴ自身の忘れ去っていた過去の記憶も甦ります。

 切り裂きジャックやボストンの絞殺魔など、歴史に名だたる快楽殺人者の模倣犯が本作でのイヴの相手となります。そうしたストーリーの展開上、本作はこれまでのシリーズ作品以上にプロファイリングにより犯人に迫るという部分の比重が高いものと言えます。
 同時に、前作における夫ロークの母親の問題を踏まえ、今度はイヴの母親というものにも焦点を当てるものとなっています。二人それぞれの父親に絡んだトラウマや過去はこれまでにも描かれてきましたが、本作においては女性を憎む快楽殺人者を形成する過程における「母親」という象徴的存在と、主人公イヴとその母親との関係が非常に綺麗にオーバーラップしています。
 また同時に、イヴにとってはすっかり「身内」となった部下のピーボディが捜査官の試験を受けるなど、シリーズを通して緩やかに成長する人間関係も、いびつで不幸な親子関係を描く上での対比としては上手く機能していると言えるでしょう。