ロビン・バーセル 『雨に濡れた死者たち』

霧に濡れた死者たち

 サンフランシスコでただ一人の殺人課の刑事として勤務するケイトの相棒のスコラーリは、妻を殺害した容疑だけではなく、連続殺人犯"切り裂き魔"として追われることになります。姿を消したスコラーリを案じつつも彼が犯人ではないことを信じるケイトですが、内部監察の部署にあたるIAのトランス警部補とともに事件を追ううちに、ケイト自身も命を狙われることになります。

 著者が元女性警察官ということで、それなりに経験に基づくリアリティを追求した部分と、ある種のデフォルメをした部分とがあるのでしょうが、この種の女性刑事ものとしては特に可もなく不可もなく無難に仕上がった作品と言えるでしょう。
 非常に抑制された文章とキャラクターで展開される事件は、それほどのサプライズも無く、些か盛り上がりの面で弱い気もしますが、無難に纏まってはいます。
 ただ、幾つかの事件が錯綜するためにどうしても煩雑で散漫な印象を与えてしまう感は否めません。
 著者自身が女性警察官であったということで、あまりに現実離れした要素は軽々しく扱ってはおらず、破綻の無い堅実な警察小説に仕上がっているということは評価出来ますが、特に人物造詣に関しては、もっとアクの強さを出してもよかったのではないかという印象。
 本作では回収し切れていない伏線もあるようですし、次作以降でフィクションならではの面白さや勢いという面での飛躍が望まれます。