海堂尊 『ジェネラル・ルージュの凱旋』

ジェネラル・ルージュの凱旋
 『ナイチンゲールの沈黙』で、伝説の歌姫が東城大学医学部付属病院に運び込まれ、彼女ばかりか小児科絡みの問題にも田口が関わらざるを得ないのと時を同じくして、救命救急センター部長の速水が業者と癒着しているという内部告発文書がリスクマネジメント委員会に投げ込まれます。成り行きからこの委員会の委員長になってしまった田口は、学生時代から速水を知るだけに俄かにこの告発を信じ切れずにいますが、病院長の指示で田口らを敵視している倫理問題審査会に速水の問題を議題として提出し、事実を調査することになります。ジェネラル・ルージュ(血塗れの将軍)との異名を持つ速水は、本当に収賄を行っていたのか。そして、この内部告発を行った者の意図は。

 前作『ナイチンゲールの沈黙』から番外編『螺鈿迷宮』の間に起こった事件であり、『ナイチンゲールの沈黙』の裏側で起こっていたもうひとつの物語です。その意味で前作『ナイチンゲールの沈黙』と重なる部分もあり、2冊でワンセットという感もありますし、登場人物の把握が済んでいる分、スムーズだった印象もあります。
 ただ、本作では田口はキャラクター的に速水に押されていますし、白鳥に至っては、本当に要所要所で何度か出番が必要とされた程度で、主役は明らかに速水であったということが出来るでしょう。そうした部分で、中心となるキャラクターに多少のぶれは皆無とは言えませんが、元々デビュー作からキャラクター造詣の上手さは際立っている著者だけに、本作も読み終えてみれば素直に「面白かった」と言える1冊です。
 救命医療と採算性という、相容れないものの間で戦うジェネラル・ルージュの速水の格好良さは、最終章までこれでもかと演出され、破天荒な「アクティブ・フューズ」を振りかざすロジカル・モンスター白鳥すらをも食ってしまっています。
 本作ではミステリとしての色合いはこれまで以上に弱まっていますが、医療の問題や速水の収賄問題をめぐり病院内で対立する勢力図、そして思わぬ災害に戦場と化す病院と、エンターテインメント要素は満載となっています。
 おそらく本作単体のみで読んだ時には、多少未消化な部分もあるのでしょうが、『ナイチンゲールの沈黙』との相乗効果はかなりのもの。
 『チーム・バチスタの栄光』ほどの破壊力や勢いはないものの、その分手馴れてシリーズとして完全に軌道に乗った感もあるので、今後益々楽しみです。