山口雅也 『チャット隠れ鬼』

チャット隠れ鬼 (光文社文庫 や 26-2)
 子供達をネット犯罪から守るサイバー・ウォッチ・プロジェクトの構成員、「サイバー・エンジェル」の仕事を命じられた、うだつの上がらない中学教師の祭戸は、その仕事のために生まれて初めてチャットの世界に身を投じます。最初は右も左も分からなかったながらも、いつの間にか祭戸は複数のハンドルを持ちヴァーチャルな人格を操り、気付けばどっぷりとチャットの世界にはまっていました。専業主婦だという不思議な女性「いぜべる」や、小学生の少女たちとの会話を重ねる中で、ある人物が危険な小児性愛者である可能性に祭戸は気付きます。
 インターネットを舞台にしたミステリというと、大抵使われるトリックが似たり寄ったりになりがちですし、本書においても強くその傾向は出ていると言えるでしょう。勿論本作は、ネットという仮想空間において、文字だけで造り上げられる仮装人格を使った物語としての特性は上手く扱われていますし、読みやすい軽めのミステリとしての完成度も決して低くはありません。
 ですが、現在ではもう手垢のつきまくったシチュエーションであり、ボリュームが少ないがために登場人物も限られているので、限られた組み合わせの中でのフーダニットになってしまっている部分での弱さ、ミスリーディングがあまり機能していない点などは指摘できるでしょう。
 横書きという体裁、ある程度先が読めてしまうほどのライトさは、ネット媒体における配信では有利に働く面もあるでしょうが、紙媒体の「書籍」になると、個人的にはどうしても食い足りなさのようなものも感じてしまいます。とはいえ、この種の小説の中では、読み口の軽さの割に凝った仕掛けはなされていますし、最後の落としどころも破綻なく上手くまとめていると言えるでしょう。
 さらに、チャットの世界には「隠れ鬼」が潜むという表現は秀逸であり、仮想現実におけるリアルの取り扱いも、インターネットの世界ならではの空気を感じさせるものでした。