湊かなえ 『少女』

少女 (ハヤカワ・ミステリワールド)
 かつては剣道で日本一になったこともある敦子は、大会で捻挫したのをきっかけに剣道をやめてしまい、学校裏サイトなどでの身近な他人の悪意に怯えながら周囲を窺がう少女になってしまいます。そしてそんな敦子の親友でありながら、以前に書いた小説を盗作された由紀もまた、手を怪我したことで剣道から遠ざかり、家庭に抱える問題に鬱屈した思いを抱きます。二人は転校生の紫織が見た死の話を聞いて以来、「人が死ぬところ」を見たいという願望を抱くようになり、学校が夏休みに入ったのを機に、それぞれが「死」に近い場所を探し、そこで人が死に瀕するのを待ち構えようとします。

 良くも悪くも本作で描かれる「少女」はリアルに無邪気であり、それがゆえの残酷さは時に少女自身をも傷つけます。そして主人公である二人の少女が抱く、「死」を知っていることで優越感を得られるという有り得ないような錯覚が、実に生々しく実体を持って描かれていることに、作者の筆力を見て取ることができるかもしれません。
 単に主人公である二人の少女の暗黒性だとか残虐性だとか、そうした一面だけをクローズアップするのではなく、彼女らが内包する弱さや優しさをも描くことで、どこまでも思春期特有の視野の狭さを持つ等身大の少女がリアルに描かれます。
 また、各々の事象が終盤でひとつのつながりを見せることについても、偶然の多用による不自然さは感じられず、端整に練り上げられた毒を含む作品世界の空気と、さり気ない伏線が綺麗に結ばれている点を高く評価できるものと言えるでしょう。
 さらには、温かさを感じさせる流れと、そこから一気に突き落とす冷酷さとを緩急つけて配置することで、特に結末部での大きなインパクトをスムーズに生み出すことに成功しています。最後の1ページを読み終えて、再び冒頭へと読者の意識を戻す強烈なパワーを持った作品でした。