伊坂幸太郎 『PK』

PK

W杯アジア予選のここぞというところでPKを決めたサッカー選手が、PK直前にチームメイトに何やら話しかけられた内容を知りたいと持ちかける大臣。小説の内容を書き換えろ、さもなくば「大変なことになる」と脅される小説家が感じた、ただならぬ圧力。携帯電話に未来に起こる事件の犯人が記されたメールが届くことに気付き、その事件を防ぐためにある手段に出る男の話。握手をした相手から、少しだけ「時間」を盗むことができる男が、世界を救うためにある任務を負う物語。
 「PK」「超人」「密使」の、内容的に補完関係のような重なり部分を持つ中編3編が収録。
 時間軸も視点も変えられた各編においては、それぞれ共通するエピソードに関わりを持つ人物が登場しており、3編全てを読むことで、読者には物語や人物の「連鎖」が見えてくるという構造が本作には存在します。
 言ってみれば本書は、登場する人物の一つの行動が、別の人物に「勇気」や「臆病」の伝染を介した影響をもたらすことで連鎖する物語であると言えるでしょう。
 こうした構成の本作は、必ずしも全てが明瞭で分かり易いばかりとは言えませんが、作中で全てを語りきらない言葉足らずな部分を残すからこそ、読者の想像力を引き出している一作とも言えるかもしれません。