畠中恵 『アコギなのかリッパなのか―佐倉聖の事件簿―』

アコギなのかリッパなのか: 佐倉聖の事件簿 (新潮文庫)

 腹違いの弟を養うために、大学生でありながら引退した大物政治家である大堂の事務所で働く佐倉聖。若手政治家の勉強会の会長を続け、多くの議員の後見もしている大堂の元には、様々な相談事が寄せられます。毛色の変わる猫がいるという家、ある若手議員の後援会の幹部が何者かに怪我を負わされたらしい事件、突然新興宗教に入信してしまった政治家秘書が持ちだした寄贈品の絵画を取り戻して欲しいという依頼、厳しい食事制限を課されているにもかかわらず太る夫に疑惑を抱く妻、政治の世界への足がかりを求めて事務所にやってきたボランティアの青年への謎かけなど。不本意ながらもバイト代をちらつかされた聖は、機転を利かせて持ち前の頭の良さで物ごとを丸く収めていきます。

 現代物、しかも政治家の事務員の仕事をする大学生が主人公という、著者には珍しい題材を物語に仕立てた作品。
 謎解きのそのものの難易度やサプライズは高くないですが、癖のある脇役の出す味わいや、ストーリーテリングの良さで、軽妙な物語に仕上がっています。
 そうした部分で本作は、清濁併せ持つ「いかにも」な政治の世界を扱いながらも、各編の落とし所はどこまでも人間味に溢れて清々しささえ感じられるものとなっていると言えるでしょう。政治の世界、あるいは政治家という題材を扱いながらも決して生臭い話にはならないのは、著者の持ち味が良い方向に出ているからなのかもしれません。