J・D・ロブ 『見知らぬ乗客のように イヴ&ローク27』

見知らぬ乗客のように イヴ&ローク27

 裕福な経営者が、行き過ぎた性行為の末と思われる遺体となって、妻が留守中の自宅で発見されます。一見すれば、倒錯的な趣味を持つ夫が妻の留守中に呼びいれた浮気相手との行為中に「事故」で死に至ったように見えた事件でしたが、直感的に違和感を覚えた主任捜査官のイヴは、被害者の人間関係を中心に聞き込み捜査を始めます。誰からも敬意を持たれて、夫婦仲も円満に思えた被害者ですが、一体誰が彼を貶めるような殺し方を企てたのか。イヴが直感的に犯人であると目した相手は、鉄壁のアリバイを持ち、誰に聞き込みをしても怪しいところなど欠片もない人物に思えましたが、思わぬところから捜査は急展開を迎えます。

 本作は、犯人と目した人物の張り巡らした策をいかにして崩し追い詰めるかを読ませることに主眼を置いた1作とも言えるでしょう。
 徐々に犯人のプロファイリングが進められ、犯人がどのような人物像であるのかを割り出しながら姿の見えない犯人と対峙してきたこれまでのシリーズの多くとは異なり、犯人が周囲を欺いて作り上げた虚偽をひとつひとつ地道に崩すための小さな綻びを探し、善良さを装った狡猾な犯人の真の姿を徐々に暴く過程が丁寧に描かれます。
 その意味では本作は、早い段階から犯人とイヴたち捜査陣との駆け引きと戦いの構図が明確であり、完璧に思える犯人の綻びをどこから探し出すのかという、あらゆる手段をもっての緻密な捜査をする過程と、それを指揮するイヴの痛快な手腕を純粋に楽しめる作風とも言えるでしょう。
 そして、思わぬ方向から解決のとっかかりが現れる終盤の展開は、一気に加速感を増して、サスペンスの面白さを存分に楽しめるものとなっています。万全の態勢で臨む犯人との対決の見せ場など、著者の魅せ方の上手さに読まされる作品となっているとも言えるでしょう。
 さらには、シリーズが長く続いていることでの登場人物たちの存在感も健在であり、シリーズを通しての成長や変化という部分でも見どころが上手く盛り込まれています。