Ai(オートプシー・イメージング/死亡時画像診断)センター長となった田口は、東城大学病院の高階院長から呼び出され、"東城大とケルベロスの塔を破壊する"という脅迫状が送られてきていることを知ります。厚生労働省の白鳥の部下である姫宮の話によれば、これは碧翠院桜宮病院の崩壊に端を発した事件であり、生き残ったと思われる桜宮家の何者かが犯人だと言います。何とか立ち上げにまで漕ぎつけたAiセンターの始動に向けて忙殺される田口は、センター内部に取り込んだ、警察庁、法医学者、病理学者などのAi否定派の妨害を抑え込み、東城大を狙う犯人との目に見えぬ攻防を開始します。
『チーム・バチスタの栄光』にはじまるシリーズの完結編。
シリーズの始まりの頃は、比較的キャラクター主導により勢いで読者を引っ張っていくような色合いも強かったように思いますが、本シリーズを中心として、同じ世界にある別の物語が確立することにより、冊数を重ねるにつれて作品世界そのものがグッと厚みを持ってきたようにも思います。
さらには、現実の医療・社会問題に対する問題提起という、著者の意図に関して言うならば、本シリーズによって広く社会に問題提起が果たされたと言えるでしょう。厚生労働省の政策の誤りにより崩壊の一途を辿る医療問題から、死因究明の最終兵器とも言えるAi導入に対し妨害をする既得権益勢力との軋轢など、本シリーズは医師でもある著者が現場で感じてきた問題を、エンタメ作品の中心テーマに据えて描かれてきました。
これらの問題は、勿論現実においてはまだまだ途上にあり、シリーズ完結といっても、作品世界においてさえ決してベストな解決を迎えたわけではありません。ですがエンタメ色たっぷりにデフォルメしつつも、現実に対してフィクションが、一つの可能性として提示することには成功しているのかもしれません。
同時に、現在進行形で現実にある問題を描いているがために、現実の医療・社会問題に対し、途中からフィクションが現実を越えて先に進む展開となって以降、物語世界が現実とは別の道を進み始めていた側面もありました。その意味で、今後どうなるのかが見えにくくなっていた部分もあったようには思いますが、本書によって最後はフィクションとしての面白さを存分に見せつける形になっています。
闇の領域にあった碧翠院桜宮病院という存在と、陽の当たる存在である東城大とが正面からぶつかることになる本書では、最終作に相応しく作品世界における様々な過去や未来が全て結集し、多くの異なる立場の思惑が絡み合っての結末へと辿り着きます。
あくまでもエンターテインメント性を重視してフィクションの面白さを大切にしながらも、同時に根深い社会問題を読者に提起した作品として、本シリーズは実に上手く目的を果たしたと言えるでしょう。
まだまだ同じ世界を描いた関連作品の全ては完結してはおらず、本シリーズの登場人物たちともお別れというわけでもないでしょうし、今後の物語を一層楽しみにしたいと思います。