乾くるみ 『カラット探偵事務所の事件簿2』

カラット探偵事務所の事件簿 2 (PHP文芸文庫)
 「あなたの頭を悩ます謎を、カラッと解決いたします」を謳い文句にするカラット探偵事務所。所長の古谷と、古谷の高校時代からの友人で元新聞記者の井上の2人しかいない(普段は依頼さえなく、2人きりでただ時間を過ごすだけ)探偵事務所には、時として不可解な謎が持ち込まれます。バルコニーで日光浴をしていた高校生の腕に、ハート形に残された白い肌。彼の腕に日焼けしないよう小さなハート形の細工をしたのは何者だったのか(『小麦色の誘惑』)。 エレベーターの点検中、誰も入り込めないはずのフロアにあった「あるもの」が消失する。それを狙って盗んだ誰かがいたのか?(『昇降機の密室』) パーキングの入り口での車の衝突事故は、後ろの車が追突したのか、それとも前の車がバックしたのか(『車は急に……』)。 「脂肪を燃焼させるもの深海にあり。模様にくせあり釣針にはかからず。よびなは地域によって曖昧なり。hintはズバリ沼津」というクイズの答えは何か(『幻の深海生物』)。 鉱物収集が好きで家を飛び出した弟の遺品の油絵の真意とは(『山師の風景画』)。 一子相伝の味を子どもに伝える前に亡くなった主人が残したレシピは存在するのか(『一子相伝の味』)。 水商売の女性の家に毎晩やってくるのは、二人の客のうちのどちらなのか(『つきまとう男』)。

 前作に引き続きシリーズ2作目の本作も、軽めの日常の謎を解くというパズル要素で練られた連作短編集となっています。
 比較的難易度の低い謎は多いものの、論理の齟齬の無さ、飄々としたキャラクターに導かれるライトノベル的なリーダビリティを備えていること、読後感の良さに加え、各短編のクオリティレベルが一定であることで、広く読者に受け入れられる要素を持ったシリーズとしての安定感があると言えるでしょう。
 シリーズ2作目となる本書では、物語の視点である井上が、「探偵の記録者」としての役割を果たし始めたのも特筆すべき点ですが、そのことを物語に大きく組み込んだ最後の『つきまとう男』で、シリーズの「今後」があることを暗示しているのも読者には嬉しいところとなっています。