福田和代 『タワーリング』

タワーリング (新潮文庫)
 高度なセキュリティを施された高層ビルのエレベーターの不具合が起こったことを皮切りに、巨大ビルの乗っ取り事件が幕を開けます。最上階に住む、ビル建設や周辺の土地開発を成し遂げた社長を人質にした犯人たちに対し、ビルに閉じ込められた社員たちは、同様に閉じ込められているビルに住む住人たちの安全を気遣いながらも、どうにかして事態の収拾を図ろうとします。

 六本木ヒルズをモデルとしたビルでの、ビル・ジャックを描く一作。
 既にクライシス・ノベルの分野では一定の評価を得ている著者なので、どうしてもそれなりの期待を持ってしまうということはありますが、クライシス・ノベル、あるいはお仕事小説という視点での過去作品との比較をすれば、やや食い足りないという印象もある1冊。
 その要因としては、特にお仕事小説的な部分での、登場人物の抱く絶対的な信念や情熱といったものへの踏み込みが今ひとつ弱いということが挙げられるかもしれません。ビルを建て管理運営している会社の社員である船津の視点と、犯人側のひとりひとりの独白的な挿入部で構成される本作は、結末で明かされるある真相のために仕方がない部分はあるものの、結局のところ誰か特定の人物への感情移入が難しい作りとなってしまっている点は否めないでしょう。
 とはいえ、やはり第一級のリーダビリティは相変わらずであり、読みはじめたら一気に結末まで読者を引っ張っていく展開の上手さを備えた作品です。