職場で何でも屋のような自分よりも、専門性に秀でた後輩の方が評価され、自分は取り残されたように感じて落ち込むOL。息子のトマト嫌いを気に掛ける八百屋の父親。家業を継がずに自分の道を歩むことが正しいのかを悩む息子。家で餃子を上手く焼けなくて、夫に美味しい餃子を食べさせてあげられないことを打ち明ける妻。チェーン店に押されて経営がはかばかしくないことに悩む喫茶店の経営者夫婦。亡き両親から店を受け継いだ若い姉妹の姉、店主の美音の心配りで供される、美味しい日本酒と料理で下町の常連たちに愛される居酒屋ぼったくり。様々な悩み事を抱えた客たちは、この店で出される料理とお酒に心を解きほぐされます。
前作に引き続いて、シリーズとして非常に安定している一冊。訪れる人や、美音自身のぶち当たる悩みや問題を、お酒や料理の逸話を重ね合わせることで解決へと向けていくというパターンが確立されており、それぞれの物語は展開のバリエーションで読ませるという形式が見えています。そのパターンから大きく外れることはないにもかかわらず、各話ともそれぞれの味わいがあり、読ませてくれる連作短編集となっています。
シリーズ1作目と比べると、ややお酒>料理の比重で、お酒にまつわる薀蓄が増えたようにも思います。読んでいると、ついつい登場するお酒を飲みたくなってしまうようなそんな上手さは前作以上で、各話の終わりにちょっとしたコラムとイラスト付きで取り上げた銘柄を掲載しているページにも、良い意味での相変わらずのあざとさを感じます。
WEBで連載されていた当初は、ふらりと店を訪れた客のひとりである要と店主の美音との恋愛の比重が高かったのを敢えて抑え気味にし、ほっこりとした作品世界の持ち味を前面に出したのが、このシリーズの安定感に繋がっている部分はあるのでしょう。とはいえ、このペースでゆっくりであれば、おおもとのWEB連載版での恋愛物としての物語が徐々に織り込まれることも、今後の展開の中では決して邪魔になることはないようにも思います。
浮き沈みの激しいネット小説というジャンルから生まれたとは思えないほどに、読んでいて安心感のある作品と言えるでしょう。