小野不由美 『営繕かるかや怪異譚』

営繕かるかや怪異譚
 祖母から受け継いだ町屋で、何故か開く扉。リフォームをした家で屋根裏に誰かいると訴える母親。引越しをした田舎の家で、あらぬ場所に現れる不気味な老人。庭にあった祠を壊し、井戸を装飾してガーデニングの水やりに使うようになって以来、やたらと枯れる植物。シャッター付きのガレージの中で頻繁に故障する車と、不気味な子供の気配。古い家に棲む何かに気付いた住人たちに、営繕をなりわいとする尾端が解決の糸口を与える連作短編集。

 「家」に棲む何かに怯えるというシチュエーションは、ライトノベル時代から著者のお得意分野であったのでしょうが、それらの作品群とは違い、本作では必ずしも怪異は解明・解消されることがありません。本書に収録された物語では、その家の住人が今後も暮らしていくために折り合いをどうつけるのか、どうやって怪異を表に出さずにやり過ごしていけるものにするのかという骨組がシリーズの根底にあります。
 また、常に中心となるキャラクターが固定され、ある程度キャラクターで読まれることを前提とされる類の作品との違いとしては、本作は各編では、営繕屋の尾端というキャラクターはあくまでも脇役であり、彼は中心として描かれないということもあるでしょう。人物ではなく、「家」と「怪異」を主役に据えたからこその、そして怪談という手法を経たからこその味わいを持つ作品でもあるでしょう。
 『残穢』や『鬼談百景』という怪談ものを経て、必ずしも解決されない怪異との共存を模索する人間の物語だからこその味が本書にはあり、今後も、pmp語りのバリエーションを続編で期待できるシリーズという気がします。