吉永南央 『糸切り 紅雲町珈琲屋こよみ』

糸切り 紅雲町珈琲屋こよみ (文春文庫)

 コーヒー豆と和食器を扱う店、小蔵屋。この小さな店の店主である未亡人の老女、お草さんは、町のはずれにある商店ヤナギで買い物をしようと出掛けますが、そこで車にひかれそうになった挙句、プラスチック製のアンティークの企業のマスコット人形を破損させてしまうトラブルに遭ってしまいます。この一件以来、彼女の周りで不穏な兆候が見られるようになりますが…。

 プラスチックの古い人形が端緒になって、小さな町の中を揺るがすある思惑が少しずつ明らかになる連作短編集。事態を複雑にしているのは、個々人の身勝手な保身だったり欲望だったりして、歳を重ね決して平坦ではない人生を歩んできたことで、そういうものを嫌というほど理解しながらも、人の醜い部分と自身の弱さや老いの悲しさに傷つく老女の姿が、本作でも等身大で描かれます。
 必ずしもすっきりとしない後味を残す結末となってはいますが、それもまた本作の持ち味なのでしょう。