三津田信三 『碆霊の如き祀るもの』

碆霊の如き祀るもの (ミステリー・リーグ)

断崖絶壁の海辺と背後は山という、貧しい村に伝わる4つの怪談。海の中に浮かび少年を追いかけてくる生首のような何か、物見櫓で迷走する僧侶を襲う怪異、竹林の迷路に迷い込んだ女性を襲うひだる神のような何か、村へと続く山道で次々に襲ってくるもの。これらに共通し、村で祀られる「碆霊(はえだま)様」とは一体何なのか。そしてこの話を聞いた刀城言耶が怪異収集をするために訪れた村で、あたかも村に伝わる怪談をなぞるかのように、迷路になっている竹林の中で餓死した男が発見されます。迷路になっているとはいえ、餓死するまで男がそこにとどまったのは、そこが被害者にとっては密室になっていたから――碆霊様の謎と不可解な事件の真相とは。

刀城言耶のシリーズ9作目。
実に著者らしい、薄気味悪い何かの存在をひしひしと感じさせる怪談と、その怪談を見立てにしたかのような殺人事件という仕掛けの作り込みが素晴らしい一作。このシリーズ独特の固有名詞が、ややこれまで以上に読み辛いというのは感じますが、事件の推理と怪談の民俗学的な解釈のアプローチのリンク具合が絶妙で、しかもそれが何度もひっくり返されるラストの推理から真相への道筋が実に説得力を持ったものとなっています。
さらには、事件の結末の後で全てをまた怪異に満ちた謎へと落とし込む、著者らしいエピローグが絶妙でした。