ポール・アルテ 『カーテンの陰の死』

カーテンの陰の死 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ1773)

 日本で紹介されるアルテの作品としては4冊目、ツイスト博士のシリーズとしては3作目です。
 第1作の『第4の扉』から、「フランスのカー」という紹介の仕方をされてきたアルテですが、今回もまたカーの、あるいは本格ミステリの古典の持つ雰囲気というのを濃厚に感じさせる作品ですね。
 何気に登場人物の中に"盲目の理髪師"がいるのは、ちょっとしたお遊びでしょうか。

 不可能犯罪、75年前の殺人と同じ状況、呪い、怪しげでひと癖もふた癖もある登場人物など、これでもかとカー好みのキーワードが盛り込まれていますが、それらが実にスマートに配列されていて綺麗に物語の中で繋がっていて煩雑さが無い点はむしろ、本家カーよりも洗練された現代作家の作品だなという印象を受けました。
 トリックそのものについては「何だそれは」という解決編でしたが、タイトルでも有り犯罪のキーワードとなる「カーテンの陰の死」という言葉の意味が非常に秀逸。また、誰もが怪しげで癖のある登場人物の描き方も良くて、それぞれの不審さが浮かび上がっては解決され、多段階的に配置された事件の真相へのミスリーディングもクリスティ的で面白かったです。
 ただし、やはりトリックそのものが明らかにされてみれば今ひとつだったのと、犯人の動機が連続殺人を犯すには少々弱いと言わざるを得ない部分は残念でした。
 ですが、最後のどんでん返しで明らかになる真相や、封印された事件そのものが浮かび上がって来る演出が印象的で、最後の最後まで楽しめる作品でした。