若竹七海 『閉ざされた夏』

閉ざされた夏
 若竹作品の中では、他のものと比べて実はそれほど印象に残る物は少なかったなという1冊。青春ミステリというには後味が悪いし、かといってその後味の悪さを上手く残して毒を感じさせるほどのものでもなし。その意味では、他の作品と比べるとどうしても評価が厳しくなってしまっているかもしれません。
 事件に関しても、放火事件の犯人の真意を量っているうちは面白かったのですが、殺人事件が起こってからは今ひとつ予想の範囲を超えたものが出て来なく、最後の真相にしてもそれほどのインパクトは感じられませんでした。
 ただ、架空の作家である高岩青十という作家の書き込みが上手く、その作家の文学記念館という独特の舞台は上手く使われていたなと思います。架空の作家の造形、そして文学記念館・博物館という場所の特殊性、そしてそこに勤める学芸員教育委員会のお偉方などの人間の書き込みは非常に分かり安く個性的であると言えるでしょう。
 そうは言ってもやはり読み終えて食い足りない気がするのは事実。キャラクター造形に関しても、どうしても主人公の個性が薄い気がしてしまいます。この人の作品では女性の主人公の語り口の方が自然でしっくり行きますね。