谷原秋桜子 『龍の館の秘密』

龍の館の秘密
 激アルバイター・美波の事件簿シリーズの第2弾。
 前作に引き続き、「立っているだけで1日2万」という怪しげなアルバイトを紹介された美波は、そのバイトを通じて日本で経済的に苦労しながら学ぼうとする留学生達と知り合います。そしてバイト先の人とともに宴会の末、誤って飲んだアルコールから醒めたら、美波は京都にある「龍の館」へ向かっていました。
 ですが、高名な画家でトリック・アートにも造詣の深い人物が生前に暮らしたその館で殺人事件が起こってしまい、警察の検証と食い違う証言をする美波は苦境に立たされます。

 コミカルなテンポの良さと、丁寧な伏線、そして大掛かりな物理トリックなど、良く練られた作品です。物理トリックそのものは大掛かりではありますが、それまでトリック・アートによる伏線もあるので、それほどのサプライズがあるわけではありませんが、物語の中での組み合わせやバランスの良さもあって、最終的なフーダニットの演出が光っていると思わされるものでした。
 ただ、人物の書き込みや、小さなエピソードの積み重ねなどの丁寧な伏線は前作同様に高い評価が与えられるべきものでしょうが、反面で真相がひっくり返る際の演出が物足りなく、サプライズの面で損をしている印象も受けます。
 収録されている短編、『善人だらけの街』も、一見するとさほど複雑な物語ではないものの、しっかりとした伏線に支えられ、美波の混乱した視点をすっきりと分かり易く書く、確かな力量が示されていると言えるでしょう。
 前作と併せて、短編も長編も一定のクオリティを保っており、安心して読めました。