恩田陸 『禁じられた楽園』

禁じられた楽園
 学生でありながら世界的に有名な芸術家の烏山響一。圧倒的なカリスマ性を持つ彼の作品は、どこか不吉でありながらも、抗いがたく惹きつけられるパワーを持っているものでした。そして、これまでは全くと言ってよいほどに個人的な繋がりなど無かったのに、登場人物たちは、烏山響一に引き寄せられるように熊野にある彼の故郷へと招待されるに至ります。不可思議な力によって人間が絵の中に入ってしまう、死者の見える映画、信じられないような巨額の費用と執念を投じて密かに作られた、悪夢と恐怖を引き出す芸術家のプライベート・ミュージアムにある"インスタレーション"。烏山響一の目的と、様々な幻視の果てにあるものは一体何なのか。

 本作は独特の空気を持った幻想ホラーであり、綾辻行人の描く"館"のように、悪夢を増幅する"場"を現実と幻想の間に見事に描き出した作品です。
 いつの間にか現実を侵食していく非現実は、作中の人物達と同時に読み手の中にも徐々に不安を呼び起こし、まるで一本の映画を思わせるように映像的に描かれます。
 奇想天外で、一歩間違えれば陳腐なものになってしまう展開や結末の処理の仕方ですが、そこに至るエピソードの積み重ねと絶妙な人物配置、そして圧倒的な筆致による雰囲気作りの上手さは評価に値するものでしょう。
 ラストの急展開は、ある意味恩田陸らしく、読者が呆然としているうちに一瞬でそれまで積み重ねてきた物語の全てを崩壊させ、様相をひっくり返してしまうものです。そうした部分で、多少読み手を選ぶところはあると思いますが、個人的にはこの辺りも、香織という女性を最後の鍵となる位置に置いたことで絶妙に思えました。
 乱歩の『パノラマ島奇談』へのオマージュであると共に、著者の「三月シリーズ」を形成する世界の一端に連なる作品。