石持浅海 『水の迷宮』

水の迷宮
 自身で夢の実現のために、リニューアルされた水族館で毎晩一人居残って残業をしていた片山は、夜の水族館で不慮の死を遂げます。それから3年が過ぎ、片山の命日に、展示されている水族館の生きものたちを危機に晒すかのような、巧妙な脅迫のメールが届きます。大事にならぬようにと一丸となって奔走するスタッフたちですが、3年前の片山の死を彷彿とさせるような殺人まで起こってしまいます。姿の見えない犯人の狙いは何なのか。

 周到な脅迫者によって翻弄されるサスペンス度の高い展開で、序盤から一気に引き込まれて読まされる作品。
 大掛かりなトリックやいわゆる本格ミステリの雰囲気を高める謎はさほど用意されているわけではありませんが、犯人の送ってくる脅迫メールと実際の行動のスマートさ、そして結末で明らかになる亡き片山の遺した夢の壮大さに魅せられます。
 そして、犯人の仕掛けた犯罪自体の論理の精度の高さもさることながら、些細な手掛かりをヒントにそれを破綻無く推理する過程も見事ですし、美しく壮大な結末に綺麗に結び付いた秀作であると言えるでしょう。
 単なるフーダニットのカタルシスではなく、洗練された謎と何よりも壮大な夢に圧倒された1冊でした。