『鏡影【緊急推理解決院 EDS 歴史推理科】』
比較的QEDシリーズに近いと言う意味で、これまでの著者の作風をそのままライトタッチにして、シリーズでは使えない小ネタを持って来たという印象もあります。登場する外嶋という医師は、QEDシリーズで奈々の勤める薬局の外嶋の親戚?という繋がりも推測されます。
ネタとしては小粒ですが、最近のQEDシリーズのワンパターンな流れとはまた少し違っている分楽しめました。
『クリスマスプレゼントを貴女に』『思い出は心の中で』
K's BAE STORY というシリーズ2編。
「パーフェクト・オールマイティ・コンサルタント」を名乗る男、要するに何でも屋が、依頼者の女性と会話をして、絡まった事件の糸を解きほぐすというシリーズ。カクテルにもこだわりを持つ著者らしい、これまでの作風とはまた少し異なったライトタイプのミステリとして楽しめました。
特に『思い出は心の中で』においては、人の考えていることが読めてしまうという女性の相談から始まる事件の解決は、短編という分量の中では多少強引な所も見受けられるものの、綺麗に纏めた印象。
『迷人対怪探偵・怪探偵退場/迷人対怪探偵secoret episode?〜?』
父親が息子へのクリスマスプレゼントに作ったという、作中作というかしょうもない脱力物のパロディ。ある意味地雷的なバカミスとして楽しめます。一発ネタとして短編アクセントにはなっているとは言えるかもしれません。
『オルゴールの恋唄』
経営者が趣味で収集したオルゴールの実演が売り物になっている旅館で、ある晩の演奏が調律ミスで失敗するところから幕を開ける物語。ある人にはアヴェ・マリアに、またある人にはバッハの平均率に、そして別の人にはトロイメライに聞こえたというこのオルゴールが暴き出す宿泊客達の人間模様を描いています。
それぞれ違って聞こえた音の種明かしはともかくとして、ここまで事件の連鎖を作ってしまったことはいくら何でもやりすぎという印象もあり、作品が独特の叙情性を有しているだけに残念でもあります。
『茜色の風が吹く街で』
学生運動の名残が残る時代、高校受験を控えた主人公達の学校で試験問題の盗難事件が起こります。各教科の問題がそれぞれ一部ずつ盗まれた中で、何故か国語だけが2枚盗まれた――という事件がミステリとしての肝になっています。
単純に事件だけを取り上げるのではなく、時代背景を色濃く描いた青春物としたところで、青春小説としての味は出ていると言えるでしょう。