リンダ・ハワード 他 『聖なる夜にあなたと』

聖なる夜にあなたと (〔MIRA文庫〕 (LH01-20))
 三人の作家による、クリスマスのアンソロジー
 既存の人気シリーズを持つ作家のシリーズの作品も、単体で刊行させることなくこうしたシーズンごとのオムニバスに収録というのは、ハーレクイン系では毎年恒例のもののようですが、あまり日本では類を見ない気がします。

『クリスマスの青い鳥』 リンダ・ハワード

 月足らずにも関わらず出産間近のキャスリーンですが、吹雪によって診療所に行くことが出来ず、往生している所を偶然通りかかったデレクに助けられます。いつの間にか何から何までデレクの世話になることになってしまったキャスリーンは、何ひとつ返すことの出来ない自分に悩みを覚えますが――。

『流れ星に祈って』『美しい標的』のスピンオフで、『流れ星に祈って』では学生だったデレクが、念願の新生児の医者になっている作品。おそらく本作単体で読めば、こんな出来た男がいてたまるかと思うのでしょうが、『流れ星に祈って』でデレクの人生のターニングポイントを読んでいると、彼の行動に説得力も出てくるというところ。

『モミの木の下で』 デビー・マッコーマー

 クリスマスに父親の元に帰るため、仕方なく大嫌いな飛行機に乗ったシェリーは、雪のため目的地に着陸できない飛行機を諦めて車で家に帰ることを決めます。ですが、やはり仕事で急いでいるというスレード・ガーナーという男と、一台しかない車に相乗りすることになります。情熱の欠片も感じられない彼と婚約者の話を聞いたりしながら家に帰るうちに、シェリーは彼に惹かれる自分に気付いてしまいます。

 短編のボリュームのわりには移動の多い話ですが、ヒロインの故郷での展開にきちんと重点が置かれているので、さほど散漫な印象は受けません。ですが、話だけで一度も登場することの無かったスレードの婚約者など、書き込めば長編として読ませる要素もあっただけに、些か物足りなさも感じる作品。

『ジョニの魔法』 メアリー・リン・バクスター

 夫と離婚して女手ひとつで書店を経営して娘のジョニを育てているレイシーは、店で顧客の一人での、ブース・ラーソン宛てのカード会社の請求書と私信の入った封筒を見つけてしまいます。人を避けて山の中に暮らすブースの家までそれを届けに行ったレイシーですが、そこで娘のジョニが怪我をするという事故が起こり、心ならずもブースとの繋がりが出来てしまいます。

 過去の傷から女性不信に陥った男と、やはり過去に傷を受けているために男を近付けないでいたヒロインとを、娘が結び付けるという物語。その筋に沿って読めば非常に良く出来ている作品であると言えるでしょう。
 些か地味な印象もありますが、その分突飛さもなく地に足の着いた作品であるということは出来るでしょう。