早見江堂 『本格ミステリ館焼失』

本格ミステリ館焼失

 ミステリ作家安井令太郎の一周忌に、彼にゆかりのある人々が、安井の作品をモチーフにした館に集まります。荒天によって外界から閉ざされた館の中で、一人、また一人と招待客が消えていきます。

 矢口敦子(谷口敦子)名義でも作家活動をしている著者のこの筆名は、献辞で「故宇山秀雄氏にささげます」とあるように、彼の名前のアナグラムでもあるようです。
 帯のあおり文句や装丁などからは、本書が『虚無への供物』ばりのアンチ・ミステリを意識していることは分かるものの、虚無〜で見られるようなペンダントリーは皆無ですし、各所に本格ミステリのガジェットは用いられるも、魅力的な謎の演出になっているかといえばそのあたりは弱いと言わざるを得ないでしょう。
 内容ははいっそ清々しいまでのバカミスであり、冒頭のオカルティックなムードと、作中作の構造から嫌な予感8割期待2割といった感じで読み進めるも、本書の大部分を占める本格ミステリ館における編集者の内山視点の物語は、ごく単調なままに終わります。
 結末部においても、登場人物の名前のこだわりだけはそれなりに納得出来ますが、犯行の動機は「人間を描かない」本格ミステリにあってもあまりにも説得力不足を感じさせ、非常に表層的なペンダントリーで描かれた人物たちの中途半端感が否めません。
 また、最後の最後で明かされる事件の真相では、これまで積み上げてきた物語が崩れるカタストロフィの演出が明らかに悪い方向に働いているように感じてしまいます。
 最初から「バカミス」と割り切って読むとしても中途半端であり、オカルティズムの演出にしろ作中作の物語にしろ、最後の結末によって全てが無意味になっている側面は否定できないでしょう。