ヴェネツィアの街の中、運河に浮かぶゴンドラの中で血塗れになった人間の男の死体が発見されます。この報せをいち早く聞いたボス猫のカルーソーは、殺人犯が街を跋扈することでヴェネツィアに観光客が減り、結果として自分たち猫の快適な住環境が損なわれることを危惧して事件の調査に乗り出します。ですが、カルーソーの指示で動いたある猫に、猫さらいをもする犯人の魔の手が伸びてきます。
この手の動物を主人公にしてあくまでも人間の視点ではなくその動物の視点で物語が展開する小説というのは、ある種のファンタジーとしての娯楽性を追求するならば、人間の側の小難しい理屈が二の次になるせいか、非常に平易で読みやすいものになる気がします。
人間社会で起こる事件を扱うにも関わらず、そこにあるのは猫の論理なわけですから、当然猫がどう人間と関わるか、人間をどう動かすかという部分がポイントになってきますが、その辺りは本作では刑事の飼い猫のカミッラや、片目ながらも行きずりの人間達に気に入られるウーノを使うことで上手く処理していると言えるでしょう。
もっとも、あくまでも最初から最後まで猫の視点で物語が進んでいくわけですから、カルーソーが事件の鍵となるヴィヴァルディの秘宝に関係する出来事を知っていたりするなど、随所でご都合主義が垣間見え、ロジック的には厳しく感じるなどの部分は目を瞑る必要はあるでしょう。
ですが、多くの個性ある猫だけでなく、鼠にまでも強烈な印象を残すキャラクター造形の上手さなど、エンターテインメント性は高い作品。