犬の言葉である「外国語」を理解する稀少な猫として、近所の猫の集会に顔を出す優雅なアカトラのマドレーヌ夫人は、嵐の日に犬の玄三郎の犬小屋にやってきてそのままその家で飼われることになった猫です。彼女の名づけ親の小学校1年生のかのこちゃん、かのこちゃんの「刎頚の友」のすずちゃん、マドレーヌの「夫」の老犬の玄三郎。彼らの過ごす穏やかだけれども不思議に満ちた日々と、そして別れまでが描かれます。
パンチの効いた著者の作品の中では異色に思えるほどに「普通」ではありますが、小学生の課題図書向きともいえるやさしくてほんのりと切ない読み味が楽しめる1冊。
伸びやかに育つ子どもならではのかのこちゃんの感性には、大人であるだろう多くの読者には、かつて子どもだった頃に感じた様々なものを呼び起こすものがちりばめられています。
描かれる人間関係、親子関係、友情。そして人と動物の関係、動物同士の関係、犬と猫との間にある穏やかな「夫婦」の愛情など、それらは意外なほどにあっさりと描かれます。ですが、そこから生み出されるゆったりとした作品の空気は、安易に劇的な描き方をしないからこそダイレクトに心に響いてくるものがあると言えるでしょう。
かのこちゃんのお父さんを通じて、別作品へのリンクがあるのもファンには楽しめる作品。