堀川アサコ 『幻想郵便局』

幻想郵便局 (講談社文庫)
 就職が決まらずにようやくアズサに見つかったアルバイトの口は、履歴書に書いた特技・探し物という項目によって声をかけてきた、山の上にある奇妙な郵便局でした。アズサはそこで、郵便局と狗山神社との間で起こった土地の権利争いに関わる木簡を探すことになります。

 この世とあの世の境にある不思議な郵便局という魅力的な舞台立ての物語。主人公のアズサが起こる怪現象をアッサリと受け入れているため、結構生々しくても怖さはないホラー作品と言えるでしょう。
 就職を決めることが出来ず、また「自分のなりたいもの」を見つけあぐねているアズサは、彼女の特技によって登天郵便局で働くことになります。「人間はなりたいものになる」という作中の言葉は、主人公のアズサの不安定な境遇での不安感などとともに、読者の共感を引き出すものとなっていると言えるでしょう。
 また、穏やかな人柄の赤井局長、無口な登天さん、口が悪く人当たりのきつい青木さん、まだ迷っていてあの世へ行けない怨霊の真理子さん、強烈な威圧感の「大奥様」、アズサの中学時代の国語教師の立花先生など、生者も死者も、登場人物が皆生き生きとしており、とても魅力的な作品となっています。
 本作は全般的にさらっと描かれるために、ホラー/ファンタジー要素の濃い世界観であるにもかかわらず、現実世界との境をさほど感じることはありません。そのことが、生々しさのない独特な柔らかな作品の空気を作り出している反面、郵便局の存在や功徳通帳など、実に魅力的な作品の要素のひとつひとつをもっと突っ込んだところを読みたかったという、不完全燃焼めいた物足りなさにもつながっている気はします。
 ですが、死という人間にはどうすることもできない絶対的なものを描きながらも、あくまでもやさしい作風や世界観、登場人物など非常に魅力的な作品であることに変わりはないと言えるでしょう。