福田和代 『碧空のカノン 航空自衛隊航空中央音楽隊ノート』

碧空(あおぞら)のカノン 航空自衛隊航空中央音楽隊ノート

 音大卒業後に自衛隊の音楽隊に入隊してサックスを吹く佳音は、人よりもぼんやりしている上に何故かトラブル呼び込み体質。演奏会に向けて同僚たちと練習をする毎日の中、楽譜の紛失の謎、大学の卒業直前に起こったいくつかの騒動の謎、指導に行った中学での楽器のパーツの焼失の謎、何も書かれていない絵葉書のメッセージの意味、何故か騒動を起こす新人の行動の謎など、佳音が呼び込んだかのように次々に起こる事件を、彼女は仲間とともに解き明かしていきます。

 自衛隊の音楽隊を舞台にした日常の謎系の物語。自衛隊等への綿密な取材をしたうえでの作品であることがうかがえる一作であり、分かりやすいキャラクターにより、少々特殊な題材をリーダビリティをもって描いた作品と言えるでしょう。
 ただ、軽い読みもののシリーズ短編としては楽しめるものの、これまでクライシスノベルやお仕事小説的な作品で評価を得てきた著者への期待で読むと、やや食い足りなさも感じることは否定できないでしょう。各編の謎についても、比較的小粒の謎であり、良くも悪くも自衛隊音楽隊の「日常」を彩るものと言えるかもしれません。そうした部分では、自衛隊の広報小説的な範囲を出ていないという指摘も出来るかもしれませんが、シリーズとして続いていくことを前提としているのであれば、「今後」の様々な展開へ続く1冊目という位置づけで、シリーズの幕開け作品として読者が入りやすい一作かもしれません。