京極夏彦 柳田國男 『遠野物語remix』

遠野物語remix
 遠野出身の佐々木鏡石が遠野で伝え聞いた物語を、柳田國男が編纂した『遠野物語』。それを京極夏彦が現代の読者に向けて自身の文章で書き下ろした一冊。
 本書は、おおもとの『遠野物語』から、テーマごと・キーワードごとのつながりで配置し直すなどの試みがなされて、一種連作短編集的な味わいも感じられるものとなっています。
 柳田國男の独特の文体から広がる世界観とは違うものの、分かりやすく端的に遠野物語のエッセンスに触れることができる一冊となっているのは事実でしょう。
 佐々木境石が語り部たちから伝え聞いた数々の不思議な物語は、「今昔物語」のような過去の話ではなく、その時点でまだ「生きて」いた物語であり、同時に現代の「物語」として意図的に創り上げられた怪奇小説ではない、土着の伝承だからこそ、そこに秘められた土地に息づく人々の歴史と言えます。それゆえに、物語によっては結末がきちんとつけられない、怪談的な消化不良の部分を残しているものも多く、だからこそのリアルが時代を超えて現代の読者にも伝わると言えるでしょう。
 本書はそのスタンスを守りつつ、あくまでも原典に忠実な姿勢で編纂された一冊であるのは確かですが、反面語りの文章はどこまでも京極夏彦の世界を感じさせるものとなっています。そうした部分では、原典から抜粋した物語ごとに、京極夏彦が物語を新たに書き下ろすという試みがあっても面白かった気はします。