鳥飼否宇 『痙攣的 モンド氏の逆説』

痙攣的 モンド氏の逆説
 徹底した秘密主義によって、メンバーの素性が隠されていた伝説的なロックバンドのデビュー公演で起きた、舞台上からのメンバーの消失と残された死体の真相を描いた、『廃墟と青空』で幕を開ける連作短編集。

 批評家である寒蝉主水が現代アートの哲学をバックボーンにした事件を解き明かすというコンセプトで進められる最初の3篇は、それぞれにおいてペンダンティックに現代アートの哲学と事件が絡む、些か変わった風合いを感じさせるながらも本格ミステリの範疇にある作品だと言えるでしょう。ですが、これらを読み進めるうちに各短編の間に齟齬が生まれ、読んでいるうちに違和感に囚われるようになります。
 そして、4つめの『電子美学』に突入した瞬間に、それまでの物語の様相は一気に崩壊し、唖然としたまま最後の『人間解体』で脱力します。
 そこにはある種のメタ構造があるのですが、そんな説明はどうでも良くなって「良くぞここまで壊れたと」言うほどのあまりの馬鹿馬鹿しさに惑わされて、むしろ評価すべき点すらあるような気がしてきました。
 とにかくキワモノ中のキワモノ、読む人を選ぶことこの上ない1冊だと言えるでしょう。